手の疾患
手根管症候群
手根管とは手首にある骨と靭帯に囲まれた空間のことで、その中を正中神経が走っています(図1)。この空間が何らかの原因で狭くなり、正中神経が圧迫される疾患が手根管症候群です。原因としては、手首の骨折などの外傷、手根管内の腫瘍、リウマチによる滑膜炎、妊娠、透析アミロイドーシスなど様々ですが、最も多いのは原因のはっきりしない特発性です。成人の有病率は1~6%で、女性に多く(男性0.6%、女性5.8%)また年齢とともに多くなる傾向にあります(30歳未満:3.7%、50歳以上:11.9%)。職業別では製造業に最も多く次いで建設業、農業などに多いと言われており、1・2次産業従事者の多い佐世保では同等もしくはそれ以上の有病率になると推測されます。
図1 手根管の解剖(正中神経は横手根靭帯の下を走行している)
典型的な症状は母指~環指(母指側)に見られる痺れと知覚低下ですが、チクチクとした痛みを伴うこともあります。また、病状が進行すると母指球筋(母指の根元の筋肉)の萎縮が起こり、「ボタンがかけにくい」とか「小銭がつまみにくい」といった症状がみられることもあります。
治療法には保存療法と手術療法があり、保存療法としては装具療法とステロイド注射を行います。ステロイド注射は短期的には7割以上の方に効果がみられますが、この効果が持続しないことも多く、また、注射の反復が合併症に繋がることもあります。装具療法は、持続して装着した場合には注射よりも高い効果が期待できますが、終日継続して装着するのが難しいのが現状です。また、夜間の装着のみでも効果は期待できますが、終日に比べて効果は低くなります。3~6カ月の保存療法で改善がみられないケースや母指球の萎縮あるいは筋力低下がみられるケースを長らく放置した場合には通常の手術だけでは改善が得られなくなることがありますので、こういったケースが手術療法の適応となります。手術としては一般的に横手根靭帯(手根管の屋根にあたる部位)を切開して正中神経の圧迫を解除する手術(直視下手根管開放術)が行われます。この手術では傷の大きさが1㎝〜5㎝と幅があり、傷が小さいものほど手術侵襲は小さくなりますが、却って合併症のリスクが増大しまた神経の除圧が十分にできないこともあります。
そこで当科では、2か所に小さな傷を開けて内視鏡下に靭帯を切開する鏡視下手根管開放術を行っています(図2、3)。2か所からアプローチすることで広い範囲での除圧が可能となり、それぞれの傷が小さいために手術侵襲も少なくなります。また、手術は局所麻酔で行うため、日帰り手術も可能です。母指から環指(母指側)に限局した痺れでお困りの方は、ぜひ当科外来に相談下さい。
図2 内視鏡で見た横手根靭帯
図3 ナイフで横手根靭帯を切開
テニス肘
テニス肘は、ものをつかんで持ち上げる動作やタオルをしぼる動作をした時に肘の外側から前腕にかけて痛みが出現する疾患です。テニスのバックハンドの動きで同様の痛みが生じることからこのような名前がついますが、テニスとの関係なく発症することも多く、別名で上腕骨外側上顆炎と言われることもあります。
上腕骨外側上顆には手首や指を伸ばすための複数の筋肉が重なるように付着しており(図4、5)、腕を酷使することでこれらの筋肉の中で短橈側手根伸筋の付け根に炎症を起こすことが原因と説明されています。テニス以外にも卓球やバドミントンなどのラケットスポーツ選手、フライパンなどを持ち上げる調理関係者、あるいは長時間パソコン操作を行うデスクワーク従事者にも発症しやすいと言われており、成人の有病率は1~3%と高く、手根管症候群と並んで頻度の高い疾患です。
図4 上腕骨外側上顆の位置
図5 上腕骨外側上顆に付着する短橈側手根伸筋
治療としてまずは保存療法を行い、エルボーバンドによる装具療法やステロイドの注射で対応しますが、腕の使い方など日常生活動作の指導や手関節・手指伸筋群の筋柔軟性を高めるストレッチも重要です。こういった治療によって80-90%は1年以内に症状の改善がみられます。ただ、保存療法だけでは痛みが改善しないケースが10-20%あり、こういったケースでは手術療法の適応となります。手術療法として通常は直視下に短橈側手根伸筋の骨についている部分を切除するだけですので、日帰りも可能です。しかしながら、実際にはその筋肉だけが原因ではない場合もあり、肘関節内にひっかかりを起こすような病変があった場合は直視下手術では確認し難く、処置が不十分になるリスクがあります。そこで当科では、内視鏡で関節内の病変をしっかり確認したうえで必要な関節内の処置を行い、さらに腱の切除を行うといった鏡視下手術を行っています(図6、7)。鏡視下手術では術後の固定・安静が不要で、1-2週間で日常生活や軽作業に復帰できます。ただ、重作業やスポーツへの復帰は3カ月以降をお勧めしています。
図6 関節鏡で見た肘関節内部(外側)
短橈側手根伸筋および関節包が損傷し、滑膜が関節内に挟まりこんでいる
図7 関節包および短橈側手根伸筋切除後
関節内に挟まりこんだ滑膜は除去されている
テニス肘に対して手術治療を行っている医療機関は少なく、また手術を内視鏡下に行っている施設はさらに少ないのが現況です。長年持続する右肘外側の痛みを訴える患者さんがおられたら、ぜひ当科外来にご相談下さい。